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東京高等裁判所 昭和42年(ネ)2132号 判決 1971年10月12日

控訴人・被告 芙蓉交通株式会社

訴訟代理人 石井嘉夫 外三名

被控訴人・原告 志村交通株式会社

訴訟代理人 小林澄男 外三名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

(申立)

控訴人「原判決を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」

との判決を求める。

被控訴人 主文第一項同旨の判決を求める。

(主張および証拠)

当事者双方の主張および証拠関係は、左記のとおり補うほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

控訴人

一、別紙(乙)のとおり主張する。

二、被控訴人主張二の事実-後記-は認める。

三、証拠<省略>

被控訴人

一、別紙(甲)のとおり主張する。

二、控訴会社の発行済株式総数三〇、〇〇〇株のうちその約三割に当る九、〇〇〇株を被控訴人が買受けたものである。

なお現在控訴会社の発行済株式総数は六〇、〇〇〇株で、資本金は三、〇〇〇万円である。

三、証拠<省略>

理由

一、当裁判所も、原判決と同様に、被控訴人の本訴請求を理由ありとして認容すべきものと判断する。その理由は、左記のとおり付加するほか、原判決理由記載のとおりであるから、これを引用する。

1  本件株式譲渡契約が既に解除され被控訴人は正当な株主ではない旨の控訴人の主張について、

まず右株式譲渡契約につき控訴人主張のような全株式買受の「前提」ないしそれができない場合の解除の「約定」が存していたとの事実については、これにそうかのような当審での控訴会社代表者山内五鈴の尋問の結果(第一、二回)は当審証人佐古忠夫、本村司、原審証人西山盛重の各証言および当審での被控訴会社代表者宮本市郎尋問の結果に対比して、にわかに採用することができず、その他、当審証人米本新次、石川正太郎、河原吉高の各証言、右佐古の証言により成立が認められる乙第一、二号証、右山内の供述(第二回)により成立が認められる乙第四〇、四一号証等控訴人の提出援用にかかる全立証によつても、これを肯認し難く、他にこれを認めるに足りる証拠がないので、控訴人の前記主張は右の点で既に前提を欠き採用し難い。

2  次に、被控訴人の本件株式の取得ないし所有が私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下、単に独禁法という。)に違反し、被控訴人は控訴人に対し右株式の取得ないし権利行使を主張しえない旨の控訴人の主張については、

(一)  控訴人と被控訴人とはともに-道路運送法にいう-「一般乗用旅客自動車運送事業」(タクシー営業)を営む会社であることは当事者間に争いがなく、いわゆるタクシー営業は道路運送法によつて運輸大臣の免許、認可による規制を受けるものとされ(同法第四条第八条等参照)、独禁法第二一条にいわゆる「その性質上当然に独占となる事業」に当ると解されるが、同条により、同法の適用が除外されるのは、さような「事業を行う者の行う生産、販売又は供給に関する行為であつてその事業に固有のものについて」であるから、しよせん、右、株式の取得ないし所有については、同法の適用は免れないものというべきである。

(二)  しかし、右株式の取得ないし所有が、独禁法違反のもの(なかんづく、同法第一〇条第一項後段にいわゆる「不公正な取引方法」によるもの)とは、本件にあらわれた全資料に徴しても、とうてい、さように認めることはできない。-なお、不公正な取引方法(昭和二八年九月一日公正取引委員会告示第一一号。以下一般指定という。)の五、十二等参照。

けだし、当審証人佐古忠夫、米本新次、石川正太郎、河原吉高の各証言および当審での控訴会社代表者山内五鈴(第一、二回)尋問の結果によつても、被控訴会社の本件株式の取得ないし所有が一般指定十二に定めるように、控訴会社-被控訴会社がこれと競争関係にあることは認められるが-の「不利益となる行為をするように」本件株式の譲渡人である佐古らを「不当に(すなわち、公正かつ自由な競争を阻害するおそれのある方法で、以下同じ)誘引し、そそのかし、または強制すること」によつてなされたものとは認めるに足りず、乙第一号証(後記乙第二、第四〇号証とも)も右佐古の証言および弁論の全趣旨に徴すると、それを認める資料となし難く、他にこれを認めるに足りる資料なく、却つて、前記甲第九三ないし九七号証、右佐古の証言およびこれによつて成立が認められる乙第二号証、前記山内五鈴の供述(第二回)によつて成立が認められる乙第四〇号証、原審証人西山盛重、当審証人木村司、大野秀雄(第一、二回)の各証言および当審での被控訴会社代表者宮本市郎尋問の結果をあわせると、控訴会社はもと、同会社代表者山内五鈴が発起人代表としてタクシー事業の免許を得て、設立されたものであり、佐古はその頃-昭和三六年-以来右事業経営に協力することとなつたものであるが、本件株式譲渡人のうち、右佐古および西山は、いずれも、かねて取締役に就任していたが、近頃取締役を退任して監査役に就任させられたことなどもあつて、控訴会社代表者山内五鈴ととかく融和を欠く間柄となつていたが、さようないわば内部事情に起因し、佐古が、まず、友人や後援者の慫慂勧告もあつて、訴外木村司を介して、被控訴人への本件株式譲渡の折衝に入り、その間西山とも語らい、ともに被控訴会社代表者宮本利郎とも面談の上、本件株式のうち他の譲渡人の株式をもあわせ、(なおそれぞれ転換社債-内訳甲第九三ないし第九七号証所載-とも)これらを被控訴人に譲渡する旨の話合を遂げたものであり、その譲渡株式(総数)の対価は譲渡転換社債の対価をもあわせ右佐古らの申出もあつて、金一五〇〇万円と合意決定され-右被控訴会社代表者は控訴会社の資産総評価額を金一億九〇〇〇万円と見積り右譲渡価格をもつて投資上の採算にあうものと考えた。-既に譲渡証を作成して、株券等及び代金の授受をもなしたことが認められ、本件譲渡株式総数は、当時の控訴会社発行済株式総数三〇、〇〇〇株のうち約三割に当る九〇〇〇株-この額面総額四五〇万円-であり、現在控訴会社の発行済株式総数は六〇、〇〇〇株で、資本金は三、〇〇〇万円であることは当事者間に争いがなく((なお右株式数の増加は社債の転換によるものであつて、増加株式数の中には前記譲渡転換社債-但し転換手続未了-が含まれていることは前記山内五鈴の供述(第二回)によつて明らかである。))、以上の認定事実にさらに前記宮本市郎の供述および弁論の全趣旨をあわせ考えると、本件株式譲渡の前記対価は必ずしも不当にすなわち、公正かつ自由な競争を阻害するおそれがあるほどに高額のものともいえないし、被控訴会社の本件株式の取得ないし所有が、控訴会社のいうように、「その会社の不利益となる行為をするように」右佐古らを「不当に誘引しそそのかし、または強制すること」によつてなされたものとはいえないことが分明である。

そして、叙上認定の事実に弁論の全趣旨をあわせると、被控訴会社の本件株式の取得ないし所有が、その他の「不公正な取引方法」によるものに当らないことはもとより、これにより独禁法第一〇条前段にいわゆる「一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる場合」にも当らないことはもちろん、民法第九〇条にも違反しないことが諒せられる。

そうすると、控訴人の独禁法違反に関する主張は、その余の点について言及、判断するまでもなく、すべて採用し難いものというべきである。

二、右のとおりであるから、原判決は相当であり、本件控訴は理由がないので、これを棄却することとし、民事訴訟法第三八四条、第九五条、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 久利馨 裁判官 三和田大士 裁判官 栗山忍)

控訴人の主張(乙)

第一、本件株式譲渡契約は既に解除され、被控訴人会社は正当な株主ではない。

即ち、被控訴人会社と控訴外佐古忠夫外四名における本件株式譲渡は被控訴人会社が控訴人会社の株式すべてを買受けることを前提に行なわれたものであつて、右佐古らにおいて全株式を取纒めて被控訴人会社に引渡すことができない場合は、これを条件として本件株式譲渡契約は解除される旨の約定が存したものであるところ、昭和四二年三月頃他の株主たる山内五鈴らにおいて残余の株式の譲渡を拒絶し、結局被控訴人会社は全株式の取得が出来えなかつたものであるから、本件株式譲渡契約は解除されたものであり株主たる権利は依然前示佐古らに存するものというべきものである。

第二、仮りに第一の主張が認められないとしても、被控訴人会社の本件株式の取得乃至所有は私的独占の禁止及び公正取引確保に関する法律に違反するものであつて、控訴人会社に対し右株式の取得乃至権利行使を主張しえないものである。

一、不公正な取引方法による株式取得の主張について。

被控訴人会社の控訴人会社株式取得行為は独占禁止法第一〇条後段第二条七項六号、公正取引委員会告示第一一号第五項並びに第一二項に違反する行為であり、無効と解すべきものである。

(一) 控訴人会社、被控訴人会社は共に主として東京都区内を営業区域とし、一般乗用旅客自動車運送事業(タクシー営業)を営む会社であつて、相互に競争関係にあるところ、被控訴人会社は、昭和四一年三月頃より控訴人会社の営業に対する介入乃至控訴人会社の乗取りを企図し、控訴人会社の監査役であると共に株主である佐古忠夫、西山盛重並びに株主である米本新次らに対し、同人ら所有にかかる控訴人会社の株式を額面の三倍以上の価額で買取りたい旨勧誘し、また同人らが右会社の全株式を取まとめて譲渡しうるならば右金額の更に二倍の価額で買取る旨申し向け、同人らをして他の株主に対してもその所有株式を被控訴人会社に売却するよう働きかけさせたものであり、その結果、右佐古、西山外三名より、本件株式九、〇〇〇株(額面合計四五〇万円)を金一、五〇〇万円で買受けたものである。右価額は額面価額の三倍余にも該当するが、控訴人会社の株式は当時無配当であるところからも、その時価が額面価額を越えることは考えられず、極めて不当な価額といわざるをえない。

(二) 元来、一事業者が他の会社の多数株式を取得することは企業結合乃至事業支配力の集中の基本的手段とされているが、殊にタクシー業界においては従来より不当過酷な経済競争が支配し株式譲渡を手段として他会社が様々な方法で経営に干渉し、或は会社乗取りを企図し、弱少業者がその犠牲とされて来たものであり、かかる業界の中でも、被控訴人会社は買収王と称せられるほど競争会社の株式を買占め或は営業譲受等により急速に支配力を拡大し大手業者の一員となつたものであつて、同社が株式買占めにより、或いは営業譲受の形式で競争会社の経営支配をなしその傘下に収めた会社は別表(一)、(二)の如くであり、控訴人会社の本件株式取得もかかる被控訴人会社による業界支配の一環としてなされたものである。

又、しかるが故に額面の幾倍もの価額で株式を買取ろうとする手段に出たものにほかならない。

控訴人会社設立に当つては、かかる業界の不当な事態を批判し、前示西山、佐古らを含む会社設立者、役員間において経営の結束を誓合い、将来何人が経営から離脱する場合においても他の事業者に乗ぜられることなきよう万全を期す旨念書を作成した程であつたが、それにも拘らず、右西山、佐古らが右確約を無視し、本件株式譲渡を為したのも結局被控訴人会社による既述の如き法外な価額での株式買入れという不当な誘引が行なわれたからである。

(三) 被控訴人会社の本件株式取得の意図が専ら控訴人会社を買収するにあつたことは、既述の如く、被控訴人会社が頭初から控訴人会社の全株式の取得を企図し、その一環として本件株式を譲受け、佐古らとの取引もあくまで全株式を取纒めて引渡すことを前提として為されていることからも明らかであるが、右買収工作の結果が全株式の三分の一に及ぶや、強圧的態度で営業介入を迫まり、控訴人会社代表者が之を拒むと、本件株式を右代表者としては到底応じえぬ様な法外な価額での買取りをなすか或は残余株式を譲渡するのか二者択一を求めた事実、被控訴人会社が控訴会社の経営に参加することを他の株主も希望していると公言している事実、及び従来のタクシー業界における例によれば三分の一程度の株式を保有することにより運転者や役員の抱き込み、組合の分裂工作等の諸手段を弄して会社経営に不当に干渉し、或は株主総会を開催せしめ或は役員を改選することにより経営に参与し、結局経営介入の目的を達している事実、殊に大手業者たる被控訴人会社と小企業たる控訴人会社の業界における地位に鑑み、かかる可能性は更に増大すること等を総合して考察すれば、本件株式の取得により被控訴人会社が控訴人会社の事業を支配し、控訴人会社の事業活動乃至取引に不当な制限を加え、もつて公正な競争を阻害するおそれは明白であり、会社役員西山、佐古らがかかる事態を当然承知の上で、なおかつ本件株式を譲渡した行為が控訴人会社にとつて不利益となる行為に該当することも論をまたないところである。

(四) 以上の事実によれば、被控訴人会社による本件株式取得は独占禁止法第一〇条一項後段の不公正な取引方法により国内の株式を取得した行為に該当し、具体的には、不当に高い対価をもつて株式を購入し公正な競争関係を阻害するおそれがあるものとして不公正な取引方法に関する公正取引委員会告示第一一号第五項に、亦、競争会社の株主及び役員に対し株式譲渡の方法をもつてその会社の不利益となる行為をするように不当に誘引したものとして右告示第一二項に該当するものである。

しかして、かかる独占禁止法に違反する株式譲渡行為は私法上も民法九〇条に違反するものとして当然無効となるものと解すべきである。

二、不公正な取引方法による株式所有の主張について。

仮りに前項の主張にかかわらず、被控訴人会社が本件株式を有効に取得したものとしても、被控訴人会社による本件株式の所有は同じく独占禁止法第一〇条後段、第二条七項六号、公正取引委員会告示第一一号第一二項に違反する行為であり、かかる株式所有者は正当な株主たり得ず、従つて株主たる地位を主張し、もつて株主名簿書換請求をなすことは出来得ないと解すべきものである。

(一) 被控訴人会社は前述の如く控訴人会社の株主佐古らを通じて全株式の買占めを図つたが、控訴人会社における他の株主においては同会社事業継続の決意が固く、対価の如何に拘らず免許事業を売る意思の存しないことを知らされた為、同年六月頃、右佐古らと謀り、控訴人会社の内部攪乱を通じて前記の目的を達成せんものと企図し、控訴人会社の他の株主に事業継続を断念させる目的で、佐古ら所有株式につき株主名簿書換請求をなすと同時に、控訴人会社役員兼株主である石川正太郎、菊地隆茂に対し控訴人会社を離反し被控訴人会社に組するよう不当な誘引をなし、或は控訴人会社労働組合長をパークホテルその他で歓待し控訴人会社代表者につき不正行為ありとの虚偽の事実を告げて扇動し、或は公式の席を利用して控訴人会社乗取成功を宣伝する等して従業員、株主等の動揺離反を醸成し、もつて控訴人会社株式の取得をはかつたものであつて、かかる不当な目的をもつてなされる株式所有が独占禁止法一〇条所定の不公正取引による株式所有に該当し、又、控訴人会社の役員乃至株主に対する既述の如き被控訴人会社の行為は控訴人会社の不利益を企図するものであり、前示告示第一二項の「不当な誘引」又は「そそのかし」に該当すること明らかである。

(二) かかる場合、右禁止規定に基いて被控訴人会社の株式所有の事実を最終的に除去するためには公正取引委員会の排除決定を要するとしても、株式を所有していること自体が明示の禁止規定に違反するものである以上、かかる株式所有者を正当な株主と全く同様に扱う必要はないものというべく、右禁止の趣旨に反しないよう権利行使が制限せられるものと解する。

従つて、本件における如く自らもまた免許事業者である被控訴人会社が専ら自己の経営規模を拡大せんがため、他の免許事業者の意思に反してその免許を奪取せんとして違法な業務干渉や株主、役員に対する不当な誘引を行い、その一手段としてその会社株式を所有している場合においては、自己が正当な企業構成員たる株主であることを控訴人会社に対して主張し得ないと解する。

第三、認可制による運送事業においては独占禁止法の適用が排除されているとの被控訴人会社の主張に対する反論。

一、タクシー営業免許制度が独占禁止法を排除する趣旨と解し得ないことは道路運送法第一条にむしろ明示されているところであつて、道路運送法も独占禁止法も各事業者に対し本来の取引分野における競争に打ち勝つことによつてのみ、その企業の発展をはかり得る状態を制度として確立せんとするものである点において全くその立法の目的を等しくするものである。

元々、この種業者に免許制を採用し、運輸省の認可を要するとしたのは、人命を預る旅客運送の特殊性、あるいは運輸事業という公共性等に基づくものであつて、この種営業における自由競争を制限しようとする趣旨ではない。

左の如き公益性に基く制約はあるにせよ、かかる制約のもとに免許を与えられた以上、業者間において自由な競争が許されてこそ初めて需要者に対するサービス体勢が確立されるものというべきである。

二、しかるに被控訴人会社の如く専ら資本取引によつて経営規模の拡大を図つているのはむしろ右免許制度を潜脱する行為といわざるをえない。

即ち、右の如くタクシー営業は運輸省の認可ある場合に限り認められると共に運輸省は輸送需要に対し営業車両が不均衡とならないよう増車車両数を決定し、事故多発乗車拒否等違反行為の顕著な会社については車両の営業停止、営業所の営業停止処分等の行政処分を行う外、各時期に行われる増車割当の度毎に、違反件数に応じて増車割当数を減らすという処置をとつて、道路運送法を遵守しない会社の経営規模の拡大を認めない方針をとつているものであるところ、被控訴人会社は過去幾度か違反行為により営業停止等の処分をうけ、増車割当を受けていないにも拘らず、多額の資金を投じてタクシーナンバー権を買占め、逆に右認可性や免許性を利用して経営規模の拡大を図つているものといわざるをえない。

三、かかるナンバー権買占め行為は法が多数のタクシー営業志望者の中から特に旅客運送事業者として適性を有すると認められる者を厳選して免許を与え、もつて旅客運送の安全とサービスの向上をはかつた趣旨に背馳する脱法行為というべきものであり、かかる行為が放任され、車両の独占化を黙視されるにおいては、タクシーの需要者はたとえ料金決定について制約があるにせよ全く選択の余地のない車両を強いられるのみならず、本来的にサービス業たるタクシーにおいて一部業者の経営をそのまま反映し需要者を無視したサービス体勢を強いられる結果となるものであつて、右結果は独占禁止法の趣旨に反しこそすれ、被控訴人会社による株式取得行為につき、同法が排除されるいわれのないことは明らかである。

第四、独禁法違反行為の効力に関する控訴人の主張(被控訴人主張第三に対する反論)

本件における如く、独占禁止法違反行為が不公正な取引方法告示一二項を理由とする場合においては、

(一) 当該取引行為は民法上当然無効であり、任意の履行が完了しているか否かによつて結論を異にすることはないと解すべきであり、

(二) 仮にしからずとするも、本件における如く株式がなお競業会社たる被控訴人会社の掌中に存し、しかも控訴人が被控訴人会社の経営介入を拒否して係争中である場合において、法律違反行為に対し法的保護を与えることはいかにも不当であるからして、かかる行為者につき、広く株主としての権利行為は認められず、唯株式所持人として株式を他に譲渡することは許されると解すべきものである。

別表(一)、別表(二)<省略>

被控訴人の主張(甲)

第一、本件株式譲渡契約が解除されている旨の主張について。

被控訴人会社と控訴外佐古忠夫等間の本件株式等譲渡契約は、同訴外人等の強い要請に基きなされたものであり、控訴人主張の如き前提や特約は全く存しない。この事実は既に本件訴訟における関係証人の証言によつて明らかにされていることであり、控訴人の本主張は理由がない。

第二、控訴人の、被控訴人における本件株式取得並びに所有が独禁法違反であり無効である旨の主張について。

(一) 被控訴人の本件株式取得乃至所有については、独禁法第一〇条第一項の適用はない。

すなわち、控訴人と被控訴人はともに一般乗用旅客自動車運送事業(タクシー営業)を営む会社であるが、いわゆるタクシー営業は道路運送法によつて認可制とされており、当該事業に固有の「一般乗用旅客自動車運送」という行為については「その性質上当然に独占となる事業」に該当し、従つて独禁法第二一条に基き独禁法の規定は適用されないものと解すべきである。

(二) 仮りに、百歩を譲つて、独禁法第一〇条第一項後段の規定が適用されるとしても、被控訴人の本件株式取得乃至所有は「不公正な取引方法」によつたものではない。

(1)  被控訴人の本件株式取得は、訴外佐古等らの個人的事情により被控訴人に対し買取方を強く要請したことに基くものであり、その対価も非上場株式であるから交換価格が不明のため控訴人会社の正味資産による価値を算定し(正確にいうと、株式の残余財産分配請求権の価値)取り決められたものである。

従つて、控訴人が何を目して「不公正な取引方法」と主張されるのか甚だ理解に苦しむところである。

(2)  また、控訴人は被控訴人の本件株式取得が独禁法第二条第七項第六号に基く公正取引委員会告示第一一号五項及び一二項に該当する旨主張するが、控訴人と被控訴人がともにその事業目的とする固有の行為については競争関係になきこと前述の通りであり、且つ控訴人会社の株主(訴外佐古等)がその所有株式を他に譲渡することが直ちに控訴人会社の不利益となる行為をするように不当に誘引し、そそのかし、若しくは強制することには当らない。

殊に、被控訴人は控訴人会社の役員または株主に「不当に低い」対価をもつて経済上の利益を供給したことも、「不当に高い」対価をもつて経済上の利益の供給をうけたこともない。また、控訴人会社の株主もしくは役員に対し、控訴人会社の不利益となる行為をするよう不当に誘引し、そそのかし、または強制した事実もない。

(2)  次に、控訴人は被控訴人の本件株式所有が前記告示第一一号一二項に該当する旨主張するが、被控訴人が本件株式を所有することによつて、控訴人会社の利益を伸長し延いては株主としてその利益を享受するため、株主権を行使することは当然の理であつて、未だかつて控訴人会社の株主もしくは役員に対し控訴人会社の不利益となる行為をするよう不当誘引し、そそのかしまたは強制した事実はないし、被控訴人の本件株式所有が一二項に該当するいわれは全くない。

第三、控訴人は、被控訴人の本件所有株式につき、株式及び株主名簿書換請求を拒否することは許されない。

被控訴人が本件株式を取得し且つ所有していることは明白な事実であり、かりに本件株式取得が独禁法の規定に違反した契約によつて取得したと認められる場合であつてもなおその取得者に帰属するものと解せられているから(昭和二八・一二・一東京高判・下裁民集四巻一二号)、公正取引委員会の排除措置がない限り、控訴人は本件名義書換請求を拒否することは許されないものである。

以上の通り、控訴人の主張はいずれも理由なきものといわなければならない。

第四、被控訴人は、控訴人の主張する株式買占め又は営業譲受の形式において傘下に収めた会社一覧(別表(一)、(二))につき、以下の通り認否し主張する。

一、被控訴人会社が株式取得をした会社(控訴人主張別表(一))について。

1 別表(一)のうち番号一、(但し車両数は四八両)、番号二、(但し、車両数は三五両)、番号三、(但し車両数は三〇両)は認める。

2 その余は否認する。

二、被控訴人会社が事業譲受をなした会社(控訴人主張別表(二))について。

1 別表(二)のうち、番号一、(但し、譲渡車両数は九両)、番号二、番号三、番号一五、は認める。

2 その余は否認する。

三、被控訴人会社が、前述の如き所謂タクシー会社の株式を取得したり、事業譲受をなしたことについては、独禁法違反の事実は皆無である。

(1)  まず、株式取得については、独禁法第一〇条第二項の規定に基き毎年三月末日現在における所有株式に関する報告書を公正取引委員会規則第一号(昭和二八年九月一日)第三条により公正取引委員会に提出している。

(2)  更らに、事業譲受については、道路運送法第三九条の規定に基き、その都度運輸大臣の認可をうけ、且つ独禁法第一六条・第一五条第二項に基き、公正取引委員会規則第一号第九条により公正取引委員会に届出書を提出している。

(3)  而して、独禁法第一七条の二によれば、前記独禁法第一〇条、第一六条違反又は脱法行為があれば公正取引委員会は違反行為を排除するために必要な措置を命ずることができることになつている。

(4)  然るに、被控訴人会社の前述の如き株式取得又は事業譲受について、いずれも所定の手続をとつているが、未だかつて排除措置をうけた事実はない。

この一事をもつてしても、被控訴人会社に控訴人が指摘するような脱法行為が皆無であることは明白であろう。

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